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高野弦氏が ”写真で語るドイツ”ーすでに始まっていた現在

朝日新聞社 高野弦 氏 

脱原発


この写真は放射性廃棄物の最終処分場を写したものです。地下1000メートルに掘られた穴で、もともとは鉄鉱石の採掘場であったのですが、もう何百万年も地震がないということでこの場所が選ばれました。ドイツは2011年福島の原発事故があった直後に原発から全て撤退すると意志決定し、今日まで着々と進みました。本年2022年が最後の年、12月末には原発がゼロになります。解体された機構、部品、部材ものがこちらに運ばれてくるという手はずになっています。トラックなどがここを通ります。


上の写真は実際に廃棄物が置かれていく通路のようなところです。先ほどの大きな通路から蟻の巣のように張り巡らされているのがこうした穴となります。ここに50メートルずつ区切って廃棄物を入れていってセメントで固めて、また50メートルという風に埋めていくそうです。

これは1000メートル上の地表に出たところです。廃棄物からの放射線は100年後には5%になりますが、周辺の地層と同じレベルになるまでには100万年以上かかると言われております。どうやってこの下に放射性廃棄物があるということを知らせ続けるのかというのが、今、ドイツ社会の大きな問題になっています。

ここの管理者の方にお話を聞きましたらこんなことを言っていました。
「100万年後には人類はいなくなっているかもしれない。それでもなおここに廃棄物があると知らせ続けなければならない」

SFチックかつ哲学的なお話でした。

難民の人たちの社会包摂


シリアから来た難民が、今、どういう生活をしているのかを写しています。2015年から2016年にかけてシリアなどから100万人を超える難民がドイツに来ました。彼らのうちの多くが、今、定職を得て働いております。右の方、ヤンギンブリムコさんはシリアから逃げてきました。自分で洋服の仕立屋を開業して、今、立派に働いています。難民の労働力人口のうちの四人に一人がこうやって働いていると言われています。よく溶け込んでいるのではないかと思います。

右側の男性もシリアからの難民です。ドイツも日本同様少子高齢化を迎えておりまして介護士不足が問題になっていますが、ここに難民や移民の人たちを配置して働いてもらうという動きが活発化しています。
彼も地中海をゴムボートで渡ってきて「死ぬかと思った」と語っておりました。

難民、移民の統合教室です。すでにドイツの人口のうち、26%が、本人、もしくは両親のどちらかが、ドイツ国籍を持たずに、生まれてきた外国の人たちです。1960年代のトルコ移民に始まりまして今まで何度か移民の人たちがドイツに入ってくる波がありました。ドイツ社会で現在問題になっているのは、平行社会というものです。外国人がドイツに来て、ドイツ社会と交わることなく、彼らだけで社会をつくってしまう。そういう事例が散見されるのです。これはドイツ社会の分断を招くものとして大きく問題視されています。

私の取材した事例を紹介しますと、トルコ移民の人たちだけでつくる政党がありまして、数万人の支持者がいます。彼らはドイツで投票権をもつ有権者なのですが、なんとトルコのエルドアン大統領に忠誠を誓っているのですね。ドイツ政府の言うことに耳を傾けず、エルドアン大統領に従い、エルドアンが、選挙をボイコットしろと言うと、彼らは選挙をボイコットしてしまうのです。こうしたことが大きな問題になっています。

このような問題が生じてくるのを防ぐために、まずは無料でドイツ語を教えてもらって、その後ドイツ社会、政治制度、ドイツ文化、歴史をすべて無料で教える教室が開かれています。

AfDの支持基盤

難民の中から問題を起こす人たちが出てきます。そうすると反作用として難民排斥の動きが広がってしまいます。これは2018年9月、ザクセン=アンハルト州で撮った写真です。移民排斥を主張する彼らの態度は暴力的でした。私はこの写真を撮った後に、三人の丸坊主のネオナチ風の男性に囲まれてカメラを渡せと脅されました。危ないかなと思った時に警察官が入ってくれて助かりました。彼らは「プレスは嘘つきだ」と言って我々を排除しようとします。

もう少し穏やかな排斥運動はこのような雰囲気です。西洋のイスラム化に反対する愛国的欧州人-PEGIDA(ペギーダ)-のデモです。毎週月曜日にドレスデンでデモをしています。

「子供の給食に豚肉が出なくなった。イスラム教徒の生徒が多くいるから。」「プールにビキニで入ると彼らにジロジロ見られる。耐えられない。」「本来であればドイツに来た難民がドイツに溶け込むべきなのに、なぜ我々が向こうに順応しなければならないのだ」

このような人たちにバックアップされて出てきた政党が、Alternative für Deutschland(AfD)-ドイツのための選択肢-です。2013年に設立されました。ギリシャ危機の直後です。ドイツが事実上ギリシャを救うのですが、その時にドイツはユーロ通貨から抜けるべきではないかということを訴えて出てきた政党です。2015年の難民危機が起こりますと、イスラム教徒を的に批判して人気を集めます。2017年の選挙で多くの票を集めて国会に入ってきます。戦後のドイツには数々の右翼政党はあったのですが、彼らが初めて国会まで駒を進めた政党です。2021年9月の選挙でも10%を超える得票をとり、今、ドイツの政治の大きな不安定要素になっています。

この写真は旧東ドイツのある村を写したものです。この村では約40%の人がAfD(ドイツのための選択肢)に投票しました。なぜか。こういう村は、とくに旧東ドイツに多いのですが、成長から取り残された地域です。携帯電話の電波も来ていない。公共交通のバスも遮断されてしまって陸の孤島のようになってしまっているわけですね。ちょうどアメリカで中西部のかつて鉄鋼業で栄えたところが寂れて、そこに住む人たちがトランプ氏に投票したというのと同じような構図がドイツでも旧東ドイツの村を中心に起きています。

この村に住む女性が見ているアルバムは旧東ドイツ時代の生活を写した写真なのですが、当時の生活がいかに素晴らしかったのかを淡々と語っていたのがとても印象的でした。

若者たちのデモ

この写真は気候変動への対策を求める若者たちのデモ(Fridays For Future)です。スウェーデンのグレタ・トゥンベリさんが2018年に始めまして瞬く間にドイツでも広がりました。ドイツでは週によっては100万人近い学生たちが金曜日に学校をボイコットしてこの運動に参加しています。朝日新聞ベルリン支局のすぐ横を通ったこともあるのですが、もの凄いシュプレヒコールの迫力で、何十分も続くものですから、とても仕事にならない状況でした。

2021年の連邦議会選挙で18歳から29歳の若者が投票した政党は第一位が緑の党でした。2021年の日本の衆院選では、同じ世代の投票先の第一位は自由民主党でした。

いろいろなことを考えさせられますね。

出典:現研第379回産業事情検討会(2022年1月28日開催)の高野弦氏報告より再編集

朝日新聞社2020年刊

高野弦(たかのゆずる)氏

朝日新聞社 国際発信部次長。
早稲田大学政経学部卒業後、朝日新聞社に入社。宇都宮、浦和支局、東京本社経済部、アジア総局(バンコク)、ニューデリー支局を経て、2016年〜2019年までベルリン支局長。この間、経済部次長、国際報道部次長・部長代理を務める。
主著「愛国とナチの間 メルケルのドイツはなぜ躓いたのか」(朝日新聞社 2020年刊)。