イノベーションの風土づくりへ

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現研所長 大槻裕志

◆アイディアの玉石混交を歓迎する

単発的なイノベーションではなく、イノベーションを生み出し続ける風土をどうつくるか?現在の多くの社が願い、取り組んでいるテーマである。

私はイノベーションを生み出し続ける風土をつくるためには「アイディアの玉石混交を歓迎する」職場風土の大切さを強調したい。そしてこのような説明を添えたいと思う。

  • たくさんの石があって玉が見つかる
  • 石をヒントに玉が生まれる
  • 石を組み合わせて玉が生まれる
  • 議論が進み、石だと思っていたものが玉だったと気づく

アイディアを発想した時点で、その良否を、言い換えれば、石か玉かを評価しようとする職場の空気は、自由にアイディアを発想しようとする気持ちに蓋をすることになる。
石は、玉を生む礎になったり、玉に化けたりすると大らかに考えて、評価を気にせず、どんどんアイディアと議論が生まれる風土こそがイノベーションを生む。それが多くの会社を見てきた私の率直な実感である。

◆第一歩の敷居を低くせよ

イノベーションの呼称に込められた共通の意味合いは「根本から変える」「新しいものを生み出す」「現状を打破する」などであろう。
はたして、全員が担当している個々の業務で「根本的に変える」「新しいものを生み出す」「現状を打破する」ことなど可能であろうか?そういわれた時に、社員たちは、どう行動すればよいのか、イメージが湧くであろうか?
イノベーションを標榜し、社員に「変われ」と呼びかける時、会社がかわろうとするビジョンの姿を、そのまま個々の社員の担当業務にあてはめて「大きく変えよ」「新しいものを生み出せ」「現状を打破せよ」とやると、社員から見ると第一歩を踏み出そうにも敷居が高すぎる。

組 織や指導者が、社員が変革をイメージできる枠組みをつくり上げる。その枠組みをイメージしながら一人ひとりの社員が自分の担当業務で、一生懸命に改善、工 夫に取り組む。そしてみんながどんどん改善と工夫を積み上げいくことを勇気づける。全員がどんどん改善を積み上げる中から、時に、画期的なアイディアや革 新的なアプローチが現れ、それが随所、随所にちりばめられるようになる。

◆「改善」が「革新」を活かす

ノベーションとして語られるものも、要素分解して、もとをたどれば社員一人ひとりの小さな知恵や改善である。その小さな知恵や改善がスピード感もってどんどん積み上がっていくと、弾みがうまれ、その集積度が閾値を超えるとイノベーションが起こる。
下図の「イノベーションの枠組み」を見てほしい。これは論理図であるよりはイメージ図である。ここではあえて、
改善:小さな変化を起こす工夫・アイディアとその取り組み
革新:大きな変化を起こす発想転換・画期的なアイディアとその取組み
と定義する。

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イメージ1でも、イメージ2でも革新の数は全部で4つである。
だが直観的にあなたはどう感じるだろうか?イメージ1の方は、イノベーションが本当に起こりそうだが、イメージ2には大きな期待を抱けないような気がしないだろうか。

直観だけでなく、現実の組織観察の結果としても、イメージ1の優位性が遥かに高い。
いろんな「改善」アイディアが湧きあがり、一人ひとりが小さくても自ら変える活動に参加している風土の中でこそ、「革新」アイディアは周りからすぐに認められて活かさる。複数の改善が相互に化学反応を起こして革新へと大化けすることだってある。

革新しか認めない空気の中では、革新は孤立し、活かされないのである。
指導者は社員に方向感をしっかり共有させながら一人ひとりに部下の努力を、たとえ見た目にはささやかな成果であっても、気づき、意図を汲み取り、その努力を認め、さらなる創意工夫を鼓舞して欲しい。
みんなでどんどん改善を積み上げる中で、革新的なアイディアが仲間の誰かから生まれ、それを自分たちの問題として喜び、すぐに活かそうとするダイナミズムの中でこそイノベーションが生まれ続けるのである。